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高松高等裁判所 昭和26年(ネ)47号・昭26年(ネ)46号 判決

昭和二十六年(ネ)第四十七号事件につき控訴人(一審原告)の控訴を棄却する。

同年(ネ)第四十六号事件につき原判決を左の通り変更する。

控訴人(一審被告)高知市長浜農業委員会(当時高知市長浜地区農地委員会)が昭和二十三年六月十一日高知市長浜字中ノ橋五千百二十六番畑三反八畝三歩の一部(別紙図面中(イ)(ロ)(ハ)を結ぶ範囲内の土地)及び同所字ヘエノ内五千百十二番畑三反四畝七歩の土地につき定めた買収計画並に控訴人(一審被告)高知県農業委員会(当時高知県農地委員会)が右土地に関し昭和二十四年三月二日附で一審原告の訴願を棄却した裁決はいづれも之を取消す。

被控訴人(一審原告)その余の請求は之を棄却する。

訴訟費用中一審原告の控訴のため要した費用は一審原告の負担とし、その余は第一、二審を通じ之を二分しその一を一審原告、その余を一審被告等の各負担とする。

二、事  実

一審原告代理人は原判決中「原告その余の請求を棄却する」とある部分を取消す、一審被告農業委員会が昭和二十三年六月十一日高知市長浜字中ノ橋五千百二十六番畑三反八畝三歩につき定めた買収計画及び右土地に関し、一審被告農業委員会が昭和二十四年三月二日附で一審原告の訴願を棄却した裁決を取消すとの判決を求め、一審被告代理人は原判決中一審被告勝訴の部分を除き、その余を取消す、一審原告の請求を棄却する訴訟費用は第一、二審共一審原告の負担とするとの判決を求め、双方代理人は互に相手方の控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は

一審原告代理人において

一、農地の賃借権その他の権利の設定又は移転は農地調整法第四条第一項、同法施行令第二条、同法施行規則第六条、第八条によつて県知事の許可又は市町村農地委員会の承認を受けねばならぬのに昭和二十二年十一月十五日一審原告と訴外長浜農業会との間において、本件農地中五一一二番三反四畝七歩を除き、その余の農地について賃借権の設定及び右長浜農業会が一審原告の承諾を得ないで山崎末利外数名に対し五一二六番三反八畝三歩を除いた二十筆の農地の耕作権を移転したことにつき、いずれも法定の手続による県知事の許可又は一審被告高知県農業委員会の承認を受けていないから、農地調整法第四条第五項(改正前の第三項)によりその効力を生ぜず、よつて訴外長浜農業会(現在は長浜農業協同組合)その他の者等は正当の権限なくして本件農地(五一一二番を除く)を耕作しているものであるから、右は自作農創設特別措置法(以下単に自創法と略称する)第二条第三条の小作地に該当しない。

二、仮りに訴外山崎末利等が耕作しているのは昭和二十三年七月二日高知県知事の売渡処分によつて所有権を取得して自作しているものとしても、本件買収計画は昭和二十三年六月十一日一審被告長浜農業委員会が定めたもので、これに対し一審原告より一審被告高知県農業委員会に訴願し、昭和二十四年三月二日訴願棄却の裁決があつたものであるから、買収計画の決定せぬ昭和二十三年七月二日頃には売渡計画を定めることは法規上許されぬものである。それ故右訴外山崎末利等への売渡処分は無効であるのみならず、原審において本件売渡処分無効の判決が確定しているのであるから、本件農地は訴外山崎末利等の自作地でもなければ小作地でもない。

三、一審原告が長浜農業会に五一一二番、五一二六番、五一四二番、五一四三番、五一四四番の土地を譲渡契約をしたとの事実を否認する、一審原告が右農業会から受取つた金三万四千八十八円はその譲渡の対価として受取つたものではなく、五一一二番の土地を除く他の土地の賃貸借の一ケ年分賃料及び離作料である。一審原告が本件土地を旧所有者に売戻すことを約束したことはない。又これを自創法第三条第五項第四号によつて政府に買収したうえ旧所有者等に売渡すことを承認したこともないし、その売渡代金を受取つたこともない。

四、本件土地を旧所有者山崎末利等が耕作するについて一審被告農業委員会の黙示の承認を得ていたとしてもそれは農地調整法所定の手続を経ていないから、その貸借は無効であつて本件土地は小作地ではない。本件土地は自創法第三条第五項第四号にも又同項第六号にも該当しない。又前記の如く一審原告が買収計画に同意したことも買収申出をしたこともないから同項第七号にも該当しない。のみならず本件訴訟の目的は自創法第三条第五項第四号の小作地として買収するのが違法であるかどうかに存し、一審被告が控訴審の終りにおいて初めて主張する右第六号、第七号に該当するか否かについては審理判断するの要がない。

と述べ、

一審被告等代理人において

一、一審被告農業委員会が本件土地につき昭和二十三年六月十一日自創法第三条第五項第四号に該当する小作地として買収計画を定め、これに対する異議を却下したことついで一審原告の訴願に対し一審被告県農地委員会が昭和二十四年三月二日附で棄却の裁決をしたことはいずれも認める。本件土地が右法条により買収すべき土地には該当しないとの主張は争う。一審被告長浜農業委員会は次に述べるような事実に基いて買収計画を定めたのであるから何ら違法はない。即ち一審原告は昭和十八年四月十三日鋼造船、木造船の建造修理製材業その他を目的として設立された会社であり、当時軍需工場としての指定を受けていたところから昭和十九年当時の土地所有者から半強制的に本件土地を買取りその所有者となつた。その後本件買収地の「五一一二番地畑三反四畝七歩」の内買収区域外にあたる個所には高知県木船工補導所が建設されたのみで、何ら軍需施設を設けることなく、右土地以外の部分は一審原告の工員等に対しその食糧補給のため耕作を許し終戦にいたつた。一審原告の従業員は退職離散し、ついで右補導所職員生徒が一審原告の承諾をえて本件土地を耕作していたが、耕作状況は頗る不良であつた。昭和二十一年末から翌二十二年初頃にわたり、本件土地の旧所有者及び耕作人等は本件土地は一審原告が戦争目的遂行のためというので半強制的に買取られたものであるから、農地改革の趣旨に則り、是非とも旧所有者の手に復帰されたい旨の要望もあつたが、当時長浜農業会はこれにその指導農場を設置することを定め、昭和二十二年二月中一審原告と本件土地のうち五一一二番畑三反四畝七歩、五一二六番畑三反八畝三歩、五一四二番畑四畝二十二歩、五一四三番、五一四四合番畑一反九畝の耕作、管理の一切の権利を地上にある建物と共に譲受ける契約をし、同年十一月十五日その対価として金三万四千八十八円の支払を了し、こゝに一審原告は爾後その土地について一切の権利を主張しないことを約し、以来同農業会は右土地を使用収益しているのであつて、いわば右契約により同農業会は永代地上権の設定を受けたものであり、その間小作料の約束はなかつたのである。右土地については後記その他の土地の場合の如く同農業会と一審原告との間にこれを元の所有者の所有に復帰せしめるといつた取極はなかつたけれど、これと同一取扱をすることにつき暗黙の了解ができていたものである。

二、その余の土地については旧所有者等の要求に対し、一審原告は一審被告農業委員会と協議のうえ、右土地は自創法第三条第五項第四号にいう小作地と認めて同法条に基づき、その買収計画と旧所有者等に売渡すための売渡計画を定め、同法所定の土地代金の外に一審原告が本件土地の買取代金として支払つた坪当り八円を別途旧所有者から償還せしめた次第であつて、本来一審原告としては本件買収並びに売渡計画について異議はなかつたのである。

三、一審原告は旧所有者山崎末利等が本件土地を耕作するにつき、一審被告農業委員会の承認を受けていないからその貸借は無効であり、本件土地は小作地でないと主張するけれども、本件買収当時の耕作者等はいずれも同農業委員会のあつせんにより一審原告から本件土地を借受けて耕作を始め、当時委員会からその耕作につき黙示の承認を得ていたものであるからこの点につき何ら違法はなく、従つて本件土地は小作地たるを妨げない。

四、仮りに右地上権設定契約又は使用貸借が無効であるとしても、本件土地は所有者が自ら耕作の業務に供していない農地であるか、又は法人の耕作の業務が適正でないかのいずれかに該当し、自創法第三条第五項第六号若くは同条項第四号に基ずいて買収しうべき農地に該当する。又一審原告が本件買収計画を定めることについて同意したことは所有者が一審被告農業委員会に対し、政府において買収すべき旨を申出でたものと解しうるから、前条項第七号に基づいても買収しうべき農地となつたものである。

と述べた外は原判決事実摘示と同一であるからこゝにこれを引用する(証拠省略)。

三、理  由

一審被告長浜農業委員会(当時高知市長浜地区農地委員会、以下長浜農業委員会と称する)は別紙目録の土地につき昭和二十三年六月十一日自作農創設特別措置法(以下単に自創法と略称する)第三条第五項第四号に該当する小作地として買収計画を定めたこと、一審被告県農業委員会(当時高知県農地委員会)は昭和二十四年三月二日附でこれに対する一審原告の訴願を棄却する裁決をしたことはいずれも当事者間に争がない。

よつて一審原告主張の買収計画及び裁決の当否について逐次審究するに、

第一、別紙目録の土地のうち五千百十二番畑三反四畝七歩について

原審並びに当審証人桑原嘉吉(当審は第一、二回)原審証人上村松太郎、当審証人森田富亀、同中山健士、同武田悦平(第一回)同永野晴男の各証言並びに原審における検証の結果を綜合すれば、一審原告は昭和十九年八月その所有者である訴外楠瀬南海男その他より軍需用製罐工場及びその附属建物並びに工員の社宅を建築するための敷地として別紙目録記載の土地を買受けたが、翌十九年末右のうち前記五千百十二番畑三反四畝七歩を高知県に無償に貸与し、高知県はこれに県木船工補導所の建物(作業場、宿舎職員室等)を建築し、その一部は現にその敷地(コンクリート跡)として残存し、その他は荒地或は花畠、野菜畑として一審原告において使用されているが、しかもその野菜畑は家庭菜園というべき程度のものであることが認められ右認定を覆すに足りる証拠はない。従つて右土地は現況宅地と認めるが相当であり、自創法第三条第五項にいう農地とはいえないから一審被告長浜農業委員会の買収計画並びにこれに基く一審被告県農業委員会の裁決は違法であつて取消を免れない。

第二、別紙目録の土地のうち五千百二十六番畑(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)を結ぶ範囲内の土地を除く)について

成立に争ない乙第一号証原審及び当審証人桑原嘉吉(当審は第一回、原審は一部後記措信しない部分を除く)原審証人高橋孝保、当審証人森田富亀、同中山健士、同武田悦平(第一、二回)同永野晴男の各証言当審における一審被告長浜農業会代表者葛目久万喜の供述並びに原審における検証の結果を綜合すれば、一審原告は前認定のとおり、別紙目録の土地を軍需工場の敷地とする目的から楠瀬南海男等から買受けうち五一一二番は高知県木船工補導所となつたのであるが、その余は軍需施設を設けることなくして終戦となつたこと、その後幾多の経緯を経て長浜町農業会は右土地を利用して農業会の指導農場を設置することとなり、昭和二十二年二月一審原告から別紙目録の土地中五一一二番畑三反四畝七歩、五一二六番畑三反八畝三歩、五一四二番畑四畝二十二歩、五一四三、五一四四合番畑一反九歩の耕作管理の一切の権利(地上にある建物共)を譲受ける契約を締結し、右農業会は同年十一月十五日一審原告に対し後記第三の土地に対するものと共にその対価として三万四千八十八円の支払をなし、一審原告は爾後一切の権利を主張しないことを約して同農業会は園芸、種苗の促成指導のため右土地を使用することとしたところ、これよりさき昭和二十一年末頃から本件土地の旧所有者及び耕作者から当初買上の目的消滅を理由に右土地の返還を要求する声が起つた結果、一審被告長浜農業委員会は事前に一審原告と協議を遂げ、その了解を得て、昭和二十三年六月十一日自創法第三条第五項第四号に該当するいわゆる「法人の所有する小作地」として買収計画を定めたことが認められ、右認定に反する原審証人崎本敬貴、原審及び当審証人桑原嘉吉(当審証は第一、二回)の証言はたやすく措信しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

第三、別紙目録の土地のうち五千百二十六番畑中別紙図面(イ)(ロ)(ハ)を結ぶ範囲内の土地について

前記第二認定の事実に原審証人桑原嘉吉の証言並びに原審における検証の結果を綜合すれば、前記農業会は一審原告より耕作権等を譲受けたが、右五千百二十六番畑三反八畝三歩のうち、その北方にある別紙図面(イ)(ロ)(ハ)を結ぶ範囲内の土地上にその西方から順次東方に木造セメント瓦葺豚小屋一棟、同住家一棟、木造杉皮葺住家一棟を建設し、現にその敷地、道路として使用しているだけで右農業会が現実に耕作の業務に供していないことが認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。それ故右(イ)(ロ)(ハ)を結ぶ範囲内の土地は農地とはいえないから、一審被告長浜農業委員会の買収並びにこれに基づく一審被告県農業委員会の裁決は違法であつて、取消を免れない。

第四、その他の十九筆の土地について

前記第二の認定事実に原審における検証の結果、当審証人武田悦平、同中山健士の各証言、当審における一審被告農業委員会代表者葛目久万喜の供述を綜合すれば、右十九筆の土地が農地であること並びに一審被告農業委員会のあつせんにより前記昭和二十二年十一月十五日頃より、この土地の元の所有者等において一審原告の諒解の下に之を耕作していることが認められる。右認定に反する原審及び当審における証人桑原嘉吉(当審は第一、二回)の証言はたやすく措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる資料はない。

右第二及び第四の土地につき、一審原告は昭和二十二年十一月之を訴外長浜農業会(現在は長浜農業協同組合)に、同農業会が農業技術指導農場として使用すること、期間は昭和二十三年十一月十四日までの一ケ年とする約束で賃貸したのであるが、(一)右農業会は五千百二十六番畑三反八畝三歩の一筆を右目的に使用し、その他の土地を一審原告に無断で他に転貸耕作させていて、自ら耕作の目的に供していないのであるから之は右農業会の小作地ではなく、転貸につき一審原告の承諾を得ていないので転借人等の小作地でもなく、(二)約定の賃貸期間もすでに経過したので右農業会は当然右土地全部を一審原告に返還すべきものであり、(三)右賃貸借及び転貸借共に法定の手続による県知事の許可又は一審被告高知県農業委員会の承認を受けていないから農地調整法第四条第五項(改正前の第三項)によりその効力を生じない。従つて右土地を耕作している右農業会その他の者等は正当の権限なくして本件農地を耕作しているのであるから、自創法第二条第三条の小作地に該当しないと主張するけれども、(一)農地の賃借人が賃貸人の承認を受けずして借地を第三者に転貸した場合には該転貸借を以て賃貸人に対抗することのできないのは勿論であるが、かゝる場合においてもその農地は所有者の自作地或は休耕地となるものではなく、農地法上小作地として取扱はれるべきものであり、(二)一審原告主張のように期間一ケ年の約束であつたものとするも、本件買収計画樹立当時はまだ期間は満了せず、(三)農地の上に賃借権その他の権利を設定し、又は之を移転するには農地調整法第四条に基き都道府県知事の許可又は市町村農地委員会の承認を受けることを要し、之を受けない設定移転は法律上その効力を生じないことは一審原告主張の通りである。右土地については前認定のように昭和二十二年十一月十五日訴外長浜農業会と一審原告との間の契約に基き、同農業会は所有者である一審原告に対し対価を支払つて耕作管理の権利を得、自ら一部を指導農場として使用すると同時に、一部を同土地の旧所有者等の耕作地として提供したものであるから、右契約が賃貸借契約か或は永小作契約かについては争のあるところであるけれども、その何れにしても、右契約については農地調整法第四条、同法施行令第二条、同法施行規則第六条により県知事の許可を受けねばならなかつたものである。右契約について所轄県知事の許可を受けていないことは弁論の全趣旨により明かなところであるから右契約は法律上効力を生ずるに由がない。しかしながら所有者である一審原告がその所有農地により自ら耕作の業務を営むことなく、之を第三者である訴外長浜農業会その他の者に提供し、同人等において各自の耕作業務の目的に供している耕作関係は、よしんば耕作権設定契約が右の理由により無効であるとしても、小作関係であると認めるべきであつて、自創法第三条第五項第四号に云う法人その他の団体の所有する「小作地」とは所有者と耕作者との間に締結せられた耕作権設定契約が法規所定の許可を欠くの理由により無効である場合においても、現在の耕作関係が小作関係であると認められる農地をも含むものと解するを相当とする。従つて一審原告の右主張は採用できない。

一審原告は更に本件土地は自創法第三条第五項にいわゆる自作農の創設上政府が買収することを相当と認めるべき土地に該当しないと主張するが、その必要性の有無の認定は所轄行政庁の自由裁量に属するところであつて、一審原告主張のような本件土地が事業資金借入のための担保となつており、他に担保すべき物件がないとか或は一審原告従業員の福利厚生施設として蔬菜園にあてるため必要だとかの事情は買収を相当であると認定するの妨げとはならないから右主張も採用しない。

右第二及第四の農地については被告長浜農業委員会の買収計画及び被告県農業委員会の裁決は違法でないから、一審原告の本訴請求中右土地に関する部分は理由がない。

以上説明のとおりであるから前記一審原告の本訴請求中、前記第一の五一一二番、同第三の五一二六番(イ)(ロ)(ハ)の範囲内の土地に関する部分は正当であるが、前記第四の十九筆の土地については不当であるから一審被告の控訴中これに符合しない原判決の右十九筆にかかる部分を取消すべく、その他は正当であるから一審原告の右控訴はすべてこれを棄却すべく、一審被告の控訴は一部理由がある。よつて民事訴訟法第三八五条、第三八四条、第九六条、第九五条、第九三条、第九二条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸友二郎 萩原敏一 呉屋愛永)

(目録および図面省略)

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